部下の負荷を和らげることは悪なのか?
自身のプロマネ経験の中で、チームメンバーを育成してきたんだが、実はほとんど「手取り足取り」面倒見た記憶はない。メンバーが課題にぶち当たった時、「本人が考え抜いて解決すべきもの」なのか「単なる見落としなのか」を判断し、後者の場合は自分がその見落としを指摘して解決させて来ている。一見すると「すぐに回答を与えている」ようにも見えるため、自分の上司からしばしば「もっと相手に考えさせろ」と叱咤されたことがある。「考えさせる」ことには賛成なのだが、考えるさせる内容については、先人たちがしっかり吟味すべきだと自分は考えている。
だから自分は、人間にとって有限な資産である「自分の時間」をどれだけ確保させてあげるかが重要だと思い、チームメンバーに余計な負荷をかけさせないようしている。残業前提のスケジュールなんてご法度である。これもまた上司から「もっと仕事あたえろ(忙しくさせろ)」と叱咤されるけど、やはりこの考え方には素直に従えない。ソフト開発業務は「知的作業」であることを前提として、メンバーの生産効率を最大限引き出すためには、「時間的余裕を与える」ことだと自分は考える。
忙しくさせないと人は成長しないのか?
少しイメージしてほしい。残業する程忙しい人、余裕がある人の軸。有能な人、無能な人の軸。これを図示すると、
一般的に「忙しい人=有能」という考え方が根強く残っている。しかし、ちょっと考えて見てほしい。余裕がある人で無能な人は忙しくて無能な人より沢山いるのだろうか?有能と無能は「忙しい・余裕ある」と相関しているのか?
自分の結論は「無能な人が忙しい・余裕ある関係ないんだったら、忙しくさせる必要がないのでは?」となる。理由は至って簡単で、忙しくて無能になってしまうと、心身ともにダメージ大だからだ。知的労働をする人にとって、心身が健全であることがもっとも重要であり、それを阻害する要因は極力排除しなければならない。特にマネージャはその排除活動をメンバーのために行うべきであると考える。
では、人はどうやって成長するのか?特に自分が身を置く業界では「自己学習」が重要だと考えている。従って、自己学習するための時間が確保できないような「残業過多」の環境にメンバーを置くことは、メンバーの成長を妨害している行為に等しいのである。誤解を恐れずに言えば、会社の時間を使って、上司・先輩たちが部下・後輩に技術をレクチャーする時間は無駄に等しい。自分が心がけているのは、メンバーたちにそれとなく「こういう分野の知識が必要である」ことを匂わせる程度(直接キーワードをいう時もある)で、あとは「時間を与える」だけである。それで自己学習する人もいれば、そうでない人もいる。そうでない人は忙しさに関係なくそうしているので、やはり「忙しくさせること」と成長は関係がないのではと思ってしまう。
OJTの限界
OJTとは仕事を通じて教育するシステムのことで、セミナーや座学教育などを対比してOff-JTと呼んだりする。昔はOJTが重要視されていた。理由は自分の推測になってしまうが、業務の中でしか得られない知識が多かったのと、IT時代の前の価値観から「情報が簡単に手に入らない」ことが前提であったからだと考える。
そして、OJTが限界だと感じるのは、上司や先輩たちが用意する教育用資料が「優秀な教材なのか?」という点。もちろん、社内特有の知識等は外に出回っているわけではないので、上司や先輩たちの知見に頼るしかない。しかし、ソフト開発技術に関しては、日々新しい情報が出てくるので、外から得る方が遥かに効率的だと考えている。
しかも、今の若手はインターネットネイティブであり、知らない情報はすぐに検索して調べられる環境にある。それをわざわざ妨害して、会社の会議室に詰め込ませ、先輩社員が会社の時間を使って纏めた、優秀かどうかチェックされていない教材を使って、一方的に教え込ませることにどれほどの意味があるか、自分にはわからない。時間を有効活用するならば、メンバー全員の「時間的余力を確保できるように」マネージャが目を光らせるだけで良いと思うのである。
次世代のOJTを考える
もし会社の時間を使ってOJTを行う場合は、「一方的な知識伝達」ではなく「メンバーの知識を持ち寄ってディスカッションする」形式に徹底すべきだと思うのである。繰り返しになってしまうが、世の中的に出回っている知識を直接教える仕組みはすでに崩壊しており、今後は「如何にして自己学習する時間を確保させてあげるか」に注力すべきかを真剣に考えた方が良いと思うのである。そして、上司・先輩が一方的に伝達するのではなく、部下・後輩からの情報を聞き、相互に研鑽していく流れを作っていく事が重要になっていくだろう。
自分の世代も含めて、現状の自己学習環境がどれだけ楽に構築できるのかをインターネットネイティブの人から教えてもらう事も重要だと思う。もしかしたら、管理職世代の人たちは今だに「本を読む」以外の学習方法しか知らない可能性もある。もし、チームミーティングやグループミーティングが開かれている環境なら、一度「みなさんがやっている自己学習の手段を共有させてください」と投げかけてみるのも良いだろう。